■二次電子像と反射電子像(1)

せっかく撮影した像も、その意味が理解できないと何もなりません。ここではSEM像の解釈をするために、SEM像の形成過程、またその性質について調べた結果を示す。

まずは、どのようにして像ができるのかの基礎知識を。

発生する電子線の種類 信号の取り込み方
図1 発生する電子線の種類 図2 信号の取り込み方


図1は、数kVに加速した電子線を試料に照射したときに表面から放出される電子のエネルギー分布を示した図である。大きく分けて、照射した電子線が表面で跳ね返る反射電子、表面の原子を励起して放出されるエネルギーが100eV以下の二次電子がある。図2は二次電子像を得る方法をたとえで説明した図である。試料表面がちょうど座布団を敷き詰めたようなマスからできているとし、その座布団を電子線という棒で順番にたたいたとする。各座布団からはその汚れぐあいからホコリが出る。それを掃除機で吸い取り、座布団ごとのホコリの量を順番に描いていくと、敷き詰められた座布団の全体のホコリ量の分布図ができる。それが二次電子像に対応する。

像の明暗ができるわけ 反射電子・二次電子の検出法
図3 像の明暗ができるわけ 図4 反射電子・二次電子の検出法


実際には、図3に示すように、試料上に電子線を走査させ、二次検出器で検出した各点の量を電気的に明るさの変化としてテレビなどのディスプレーに表示する。試料上を走査した距離をaとし、それに対するディスプレーの距離をAとすると、倍率はA/aで表される。例えば試料上の距離aが0.1mmで、ディスプレー上の距離Aが10cmだとすると、100mm/0.1mmで倍率は1000倍となる。したがって、倍率の値はどのような大きさのディスプレーや写真で観察するかによって異なる。Tiny SEMではA7用紙(A4の用紙の8分の1)の大きさの像の倍率が表示されているので、テレビモニター上では表示より数倍の倍率の像を見ていることになる。その点で、スケール(例えば1μm)のバーで表示をするのが良い。図4は二次電子を検出する様子を示した図である。検出器には+10kVの電圧がかけられている。試料表面から放出された二次電子は、ほとんどがこの強い電界に吸い取られ能率よく検出される。一方加速電圧と同じエネルギーで跳ね返った反射電子は、検出器の窓に入ったものだけは検出されるが、その量は二次電子に比べ非常に少ない。

直進する反射電子は、試料表面の形状に著しく影響されるので、形状情報を得るときには役に立つ。装置の取り扱い説明書には書かれていないが、実験的に試みたところ、かなり鮮明な像が得られた。その方法は、検出器に印加されている電圧を切る(コントロール電源のコンセントを抜く)のである。こうすると二次電子はほとんど検出できない。その状態で検出器の感度を増すと反射電子の信号が得られた。二次電子像に比べるとノイズが多いが単に検出器の印加電圧を切るだけで反射像が得られることが分かった。

このSEMは永久磁石レンズなので磁場強度は変えられない。試料に電子線を収束させるには、加速電圧を少しずつ変化させる。標準の試料位置では、加速電圧が約13kVで観察する。しかし、標準の試料位置を数ミリ上げてセットすると、もう少し低加速で収束する。実験では、4mm程度試料を上にセットすると約8kV程度の低加速で観察できる事が分かった。

前にSEMアートギャラリーの低加速(1kV)像の観察で紹介したが、軸あわせのため、加速電圧の低いところで調整をしていたとき1kV近傍でもかなり鮮明な像が得られる事が分かった。これは、この装置が永久磁石であるため、加速電圧を下げると電子は強い強い磁場を受けて、何回も収束した結果、像が得られると考えられる。このように極低加速の像も得られる事が分かった。

低加速像・反射像の操作法 加速電圧による電子の散乱領域
図5 低加速像・反射像の操作法 図6 加速電圧による電子の散乱領域


図5はこれまで実験した撮影方法の模式図である。加速電圧8kVの二次電子像では、試料位置を上げ、1kVの二次電子像では加速電圧を下げて数回収束する条件で観察した。13kVの反射像では、検出器の印加電圧をoffにした。

同じ二次電子像でも、加速電圧によって像のコントラストが変化する様子を理解するために、試料内での電子線の振る舞いをモンテカルロ計算法で求めた。その結果を図6に示す。 図では、アルミニュウム試料に、加速電圧15、10、5、1kVの電子線を照射した時の様子を示している。加速電圧によって、散乱する領域が著しく変化する事が分かる。そのことから、試料の凹凸により二次電子の発生量が変わる事を示す。

形状と二次電子の発生量図 反射像・二次電子像の比較
図7 形状と二次電子の発生量図 図8 反射像・二次電子像の比較


図7は微粒子があり、試料に凸部があるときの二次電子の発生する様子を示す。加速電圧が13kV程度の比較的高加速では、散乱領域は1μm以上になるので、粒子の側面からも電子が表面に放出される。したがって図の下に記入したように、凸部の側面では二次電子が異常に増す。このように凹凸のエッジで電子線の発生が多くなることを、エッジ効果と呼んでいる。しかし、図6で分かるように加速電圧を下げると、散乱領域が極端に小さくなるので、図7の低加速で示すようにエッジ効果は減少する事が分かる。

次に反射像のコントラストについて図8で考察する。反射電子像では、凸試料の右側に検出器があると、試料の左側で発生した反射電子は、試料で遮蔽され検出器に届かない。したがって凸試料の左側は影となる。このことは走査電子顕微鏡(SEM)の図1で検出器が光学顕微鏡の照明に対応すると説明したことに対応する。一方二次電子像では、試料の左側で発生した二次電子も検出器に印加された電界で引き寄せられるため、影は非常に弱くなる。 (注)最近の汎用SEMでは、反射電子の検出量を増すために、ドーナツ状の検出器を試料の上部に配置しているケースが多いようである。この場合は検出器の方向性が無いので影は得にくい。





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