■ 毒針を持つスズメバチ

随分前の事だが、友人がスズメバチ三匹を提供してくれた。 しかし、そんな怖いものを解体してSEM観察する勇気が出ず、そのまま保管していた。 しかし、シジミチョウを観察した後、なかなか面白いテーマが見つからず、期限が迫ってきた。 そこで、勇気を出してスズメバチを解体してSEM観察することにした。以下その結果を報告する。

図1 スズメバチの全体像 図2 前脚の全体
図1 スズメバチの全体像 図2 前脚の全体


図1は一匹のスズメバチで体長は約25mmである。図2は前脚の全体で、中央に触覚を掃除するクリーナーが見える。

図3 前脚の脛節とフ節の間にあるクリーナー部 図4 クリーナーのブラシ先端部
図3 前脚の脛節とフ節の間にあるクリーナー部 図4 クリーナーのブラシ先端部


クリーナーのSEM像を図3に示す。クリーナーでは、下部のブラシで触覚を挟んで、触覚に付着したゴミを取ることができる。
図4はブラシの先端部で、50~70μm長さの櫛がある。

図5 クリーナーのブラシの根元 図6 クリーナーのブラシの相手の櫛
図5 クリーナーのブラシの根元 図6 クリーナーのブラシの相手の櫛


図5はブラシの根元部の櫛である。図4で示したブラシの先の3分の1くらいの大きさである。 どのように使い分けているのだろうか。図6はブラシの相手にある櫛である。 これも図5で示したブラシの根元部の櫛と同じように細かい目の櫛である。

図7 前脚の?節部下面 図8 正面から見た頭部
図7 前脚のフ節部下面 図8 正面から見た頭部


図7は前脚の先端部の像である。鋭い爪が広げられている。またその間には爪間盤があり、平坦な面に吸い付けるようになっている。

図8は頭部の正面像である。長い触覚が複眼を被い、硬そうな大顎の両側に下りている。下部には大顎から出た舌が見える。

図9 触覚の先端部 図10 図9の拡大
図9 触覚の先端部 図10 図9の拡大


図9~14は、触覚を観察した像である。図9は触覚の先端部、図10はその拡大である。

図11 図10の拡大 図12 図11の拡大
図11 図10の拡大 図12 図11の拡大


図11,12,13,14は図10の視野を順次拡大した像である。 ジェット機のエンジンのような形をした円筒の中に突起がある組織(図13)が認められる。味覚を感ずる組織ではないか。

図13 図12の円形組織拡大 図14 図13の平坦部拡大
図13 図12の円形組織拡大 図14 図13の平坦部拡大


次に複眼を観察した結果を示す。

図15 頭部複眼部 図16 複眼部拡大
図15 頭部複眼部 図16 複眼部拡大


図15で示すように、複眼の形は円形ではなく、ひょうたん型で、中央が萎んだ形状である。順次拡大して観察した結果を、図16~20に示す。

図17 図16の拡大 図18 図17の拡大
図17 図16の拡大 図18 図17の拡大


複眼は、四角形、五角形、六角形の個眼が巧みに繋がり、複雑な形状を組み立てていることが分かった。

図19 図18の拡大 図20 図19の拡大
図19 図18の拡大 図20 図19の拡大


個眼の表面を拡大すると(図20)、200~300nm径の突起がある事が分かった。光の波長より短い周期である。 紫外線を検出できる機能であろう。

図21 舌部の光学顕微鏡像 図22 舌部のSEM像
図21 舌部の光学顕微鏡像 図22 舌部のSEM像


一つの個体に、舌を出しているのがあった。 そこで、舌を観察することにした。図21は光学顕微鏡で撮影した、大顎から出ている舌の写真である。この舌で蜜を舐めている。 SEMで拡大して観察した結果を図22~26に示す。

図23 図22の拡大 図24 図23の拡大
図23 図22の拡大 図24 図23の拡大


舌の形は我々の舌に似ている。ただし、中央部が凹んでいるのが特徴である。 拡大すると、図24で分かるように、ご飯をすくう杓子のような形をした片が鱗粉のように並んでいる事が分かった。

図25 図24の拡大 図26 図25の拡大
図25 図24の拡大 図26 図25の拡大


一片を拡大したのが図25,26である。表面は特に際立った構造は認められなかった。この杓子で花の蜜をすくうのであろう。

次に尾部から約2mm突き出ている毒針を観察した。まず全体像を撮影し、初めに撮影した側と反対側も撮影した。その像を図27に示す

図27 露出している針の全体像(上下の像はお互いに反対の面である)
図27 露出している針の全体像(上下の像はお互いに反対の面である)


針は細長く、まるで刀のようで、鋭い形状と刃先をしている。

図28 図27の先部拡大
図28 図27の先部拡大


先端部を撮影したのが図28である。刃先には、のこぎりの刃のような返しが何個もついている。抜けないための仕組みである。 おそらく二枚の刃が重なっているのであろうが、それらの表面には溝が刻まれているのが分かる。

刃の組み合わせを知るため、図27のA部とB部を剃刀で切り、その断面を観察した。

図29 図27のA部断面 図30 図27のB部断面
図29 図27のA部断面 図30 図27のB部断面


A部は二枚の刃が重なっている事が分かった。またB部では、二枚の刃を包む鞘のような組織がある事が分かった。 この鞘に当たる組織は、図27、28の下の写真で手前にある事が分かる。

図31 図30の説明図 図32 図28の説明図
図31 図30の説明図 図32 図28の説明図


分かりやすくするため断面を図解したのが図31である。赤色と青色が図28で観察した二枚の刃である。 黒色で書いた組織は、二枚の刃を固定する鞘に当たる組織である。 ここで注目したい事は、赤青いずれの刃の表面にも溝があり、鞘には突起があり、それらが野菜など収納する袋のチャックのような構造で、 簡単には離れないが、先と根元の方向には線路のように動く仕組みである。 すなわち、二枚の刃は鞘に固定され、前後には滑るように動かすことができる。 刺した針は、二枚の刃を交互に前後に動かし、掘り下げて毒を送り込むようになっていることが分かった。

しかし、毒と卵を同じ管で送れるものかと不思議に思った。インターネットで調べたら、専門家のホームページが見つかった(注1)。 その説明によると、産卵はその針を使わず、その根元付近から産み落とすと書いてあった。 これについては、できたら今後調べたい。
(注1) 都市のスズメバチ(http://www2u.biglobe.ne.jp/~vespa/v_body2.htm)

その他、単眼、翅のカギ、他の脚などを観察したが、2012年に観察したコアシナガバチとほぼ同じだったのでここでは省略する。
                    ―完―





タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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