■ 優美なラベンダー(レースラベンダー)

昨年の春、花屋で優美なラベンダーを見つけた。 深い青紫色をした花、それに唐草模様のような形をした葉、つい買い求めて庭に植えた。 このラベンダーは葉っぱがレースのようだからということで、レースラベンダーという名前が付けられている。 今回はレースラベンダーをミクロの眼で観察した。

図1 レースラベンダー 図2 その葉っぱの形状
図1 レースラベンダー 図2 その葉っぱの形状


図1は庭に植えたレースラベンダーである。深い青紫の花とレースのような形をした緑色の葉とのバランスが魅力的である。


・葉の観察

図3 一枚の葉の表面の光学顕微鏡像 図4 図3のSEM像
図3 一枚の葉の表面の光学顕微鏡像 図4 図3のSEM像


図3は葉の表面の光学顕微鏡写真である。表面に枝状の組織が認められる。 図4はその葉のSEM像である。その上部を順次拡大して観察したのが図5~14である。
図5から、枝状の組織と以前ゼラニューム等で観察したような球状の組織がある事がわかった。 いずれも腺毛と考えられるが、枝状の腺毛は初めて観察した。枝状の腺毛をさらに拡大して観察した結果を図5~8に示す。 表面から突き出た太い幹状の組織の先は針状組織が枝のように広がっている。 また針状組織の表面は0.5μm以下の突起で被われている。

図5 図4の上部拡大 図6 図5の拡大像
図5 図4の上部拡大 図6 図5の拡大像


図7 図6の拡大像 図8 図7の強拡大像
図7 図6の拡大像 図8 図7の強拡大像


図9,10は球状の腺毛を拡大して観察した結果である。 他のラベンダーでも同じような組織があり、その中に精油が含まれていて、匂いを発する組織であると考えられる。

図9 図5の中央上部 図10 図9の拡大像
図9 図5の中央上部 図10 図9の拡大像


図11は図5の下部で、葉の中央部の像である。枝状の腺毛が多く、その拡大した写真を図12~14に示す。 ここで注目したいことは、幹部が白く輝いている事である。 電子線が幹表面にすれすれに照射しているので二次電子が発生しやすい事も影響しているが、異常な輝度である。 おそらくこの部分には水分が多く含まれ、表面に染み出しているため、二次電子の発生効率が高くなっているのではと考えられる。

図11 図5の下部拡大像 図12 図11の拡大像
図11 図5の下部拡大像 図12 図11の拡大像


図13 図12の拡大像 図14 図13の強拡大像
図13 図12の拡大像 図14 図13の強拡大像


以上、葉の表の表面の微細構造を観察したが、枝状の腺毛はどんな役目をしているのだろうか。 その理由を文献ではなかなか見いだせなかった。草食昆虫の侵入を防ぐバリケード、すなわち防御機能かもしれない。 またその幹の部分には昆虫が嫌がる精液が入っていて、匂いとバリケードで防護しているのかもしれない。


次に葉の裏側についても観察した。

図15 葉の裏面の光学顕微鏡像 図16 図15のSEM像
図15 葉の裏面の光学顕微鏡像 図16 図15のSEM像


図15は葉の裏側の光学顕微鏡像であり、図16はそのSEM 像である。裏面でも枝状の腺毛と球状の腺毛が沢山認められる。 枝状腺毛が球状腺毛を守るバリケードように生えている事が分かる。
それらを拡大して撮影した写真を図17~22に示す。

図17 図16の上部拡大像 図18 図17の拡大像
図17 図16の上部拡大像 図18 図17の拡大像


図19 図18の拡大像 図20 図19の強拡大像
図19 図18の拡大像 図20 図19の強拡大像


図21 図17の中央部拡大像 図22 図21の拡大像
図21 図17の中央部拡大像 図22 図21の拡大像


図20は枝状腺毛を強拡大した像であるが、表面の突起の様子が分かる。 また図22は球状腺毛を強拡大した像であるが、表面はかなり平坦で、軟式テニスボールのような滑らかな組織である事が確認できた。 レースラベンダーはラベンダーとしては匂いが弱いと言われているが、それでもかぐとほのかな匂いがする。 その匂いの素は球状の腺毛の中の精油であろう。


・花の観察

次に、花について観察した。図23は茎の先の花の房である花弁を少し剥ぎ取って中の様子を見たのが図24である。 手前下に雌蕊、奥に黄色い雄蕊とその花粉が見える。 花弁の内面には多くの毛が生えている。昆虫が入り込むとき、身体に花粉を付ける仕組みであろう。 図25は雌蕊を取り除いて、雄蕊を見た写真である。 雄蕊の花糸は花弁の下部から出ている。

図23 花房 図24 雄蕊と雌蕊 図25 雄蕊のようす
図23 花房 図24 雄蕊と雌蕊 図25 雄蕊のようす


まず雄蕊の様子を調べた。図26は図25の光学顕微鏡写真と同一視視野のSEM像である。 それを順次拡大して観察した結果を図27~33に示す。

図26 図25のSEM像 図27 図26の拡大像
図26 図25のSEM像 図27 図26の拡大像


図28 図27の拡大像 図29 図28の拡大像
図28 図27の拡大像 図29 図28の拡大像


図30 花粉部拡大 図31 雄蕊端部拡大
図30 花粉部拡大 図31 雄蕊端部拡大


花糸の先にはドーナツ状の葯があり、その表面に乾パンのような形状をして花粉が付着している。

図32 花弁内面の毛 図33 図32の拡大
図32 花弁内面の毛 図33 図32の拡大


雄蕊の横の花弁内面には多くの毛が生えている。その毛を拡大したのが図33である。 この毛の表面にも、枝状の腺毛の先と同じ突起が認められる。

次に、雌蕊を観察した。図34は図23の房の中の一輪の花である。花弁を少し剥がして雌蕊が見えるようにしたのが図35である。この雌蕊をSEM観察した結果を図36~43に示す。

図34 一輪の花 図35 雌蕊
図34 一輪の花 図35 雌蕊


図36 雌蕊のSEM像 図37 図36の拡大
図36 雌蕊のSEM像 図37 図36の拡大


雌蕊は上に開いた形状で、その口周辺に花粉が付着している事が分かる。

図38 図37の拡大 図39 試料傾斜をして上から見る
図38 図37の拡大 図39 試料傾斜をして上から見る


図38は図37の中央部の口周辺の拡大像である。花粉が雌蕊の柱頭に付着している粘液と反応して膨潤しているようだ。

図39は試料を傾斜して口を真上から見た像である。多くの花粉が口の中に入っている事が分かる。順次拡大して観察した結果を図40~43に示す。

図40 図39拡大 図41 図40の拡大
図40 図39拡大 図41 図40の拡大


図42 図40の拡大 図43 図42の拡大
図42 図40の拡大 図43 図42の拡大


図42、43で雌蕊の柱頭の粘液に埋まった花粉が膨潤している。 おそらく、接続部では花粉管が伸びて子房に繋がっていると考えられる。

以上、レースラベンダーの観察で特に注目したのは、葉の表面に見られた針状の腺毛である。 球状の腺毛を昆虫から守るバリケードと考えたが、実際はどうであろうか。専門家の意見を伺いたい。


                    ―完―





タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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