■樹木に突き刺す蝉(アブラゼミ−口吻2)

前編では、蝉の口吻が単に注射針のようなパイプ状ではなく、蚊の口吻(蚊の見事な能力1)で観たように、鞘とその中に針状の舌からできていること、さらに舌は、半円状の針が合わさったものとそれを支えている二本の支え棒からできていることが分かった。 今回は、口吻を切断しながら、さらに口吻の詳細を調べることにした。



・口吻の横断面形状観察

まず、前編(アブラゼミ−口吻1)の図2〜16の観察で用いた蝉の口吻を、次図(図1)に示すような場所(CUT)で切り取り、その横断面を観察した。

口吻のデジタルカメラ像と切断場所 口吻先端部のSEM像と切断場所
図1 口吻のデジタルカメラ像と切断場所 図2 口吻先端部のSEM像と切断場所


図1,2は先端から順次切断した場所を示す。光学顕微鏡下で、愛用の安全カミソリで、およそ0.3〜0.8mm間隔で切断をすることができた。しかし試料が乾燥しているので、切断の際、砕けやすく、どうしても組織の一部が破壊されていた。

切断前の先端部 切断前の先端部正面像
図3 切断前の先端部 図4 切断前の先端部正面像


図3,4は切断前の先端部を斜め上から観察した像と、真正面から観察した像である。この口吻では舌部は鞘の奥に引っ込んでいる。多分この状態が樹液を吸っていない普通の状態であろう。

CUT1部を斜めより観察 CUT1の横断面像
図5 CUT1部を斜めより観察 図6 CUT1の横断面像


図5は先端をわずかに切断した、CUT1の状態を斜め上から観察した像である。舌部がまだ切れていない深さで、先端から約0.35mm奥である。それを真正面から観察した横断面像を図6に示す。中央に舌部が見える。鞘はC字型をしていて、厚さがあり中に物が詰まっているようである。この空間を今後「洞」と呼ぶことにする。このような構造は、蝶の口吻(スジグロチョウ−口吻2)でも観察された。

CUT2の横断面像 CIT3の横断面像
図7 CUT2の横断面像 図8 CUT3の横断面像


図7と8は、それぞれ、CUT2とCUT3の場所の横断面像である。鞘の上部の開いていた隙間がだんだん接近してCUT3では密着している。洞には詰まっている部分と空洞になっている部分があり、形状と切断面の滑らかさから、筋肉組織でなく、液体が固まったように見える。舌組織は、楕円形の鞘のほぼ中央にある。

CUT4の横断面像 図9の拡大像
図9 CUT4の横断面像 図10 図9の拡大像


図9はCUT4の横断面像であり、図10は中央の舌部の拡大である。この位置では、鞘は少し平たく、への字に曲がっている。中央の二本の針の間にも、支えの中央部にも穴が開いているのが認められた。

CUT5の横断面像(低倍) CUT5の横断面像
図11 CUT5の横断面像(低倍) 図12 CUT5の横断面像


図11,12は口元のCUT5部の横断面像である。CUT5部は太く、図12は図3〜9と同じ倍率で、図11はその約3分の1倍の像である。舌部は一番上部にある。

前編で針が出ている様子を観察(前編の図17〜28)した試料も切断しながら観察した。次に、鞘から出ていた舌の断面を示す。

前編図19の試料断面 正面断面像 図14拡大像
図13 前編図19の試料断面 図14 正面断面像 図15 図14拡大像


図13〜15は突出している舌の断面像である。図13から、支え棒の長さが異っているのが分かった。図14は正面からの断面像であり、図15はその拡大像である。左側の支え棒は切断され、中央に小さな穴があることがわかる。

二つの試料の断面観察から、長さ方向の断面形状の変化のようすを図示した。その結果を図16に示す。

口吻断面の場所による変化の様子
図16 口吻断面の場所による変化の様子


図16は長手方向の断面像の輪郭を写し取ったものである。左側が先端部で、右に行くほど口元に近づく。先端から口元に行くにしたがって、だんだん太くなるだけでなく、先端で楕円形であった断面形状は円形に近く、さらにへの字のようになり、口元では三倍くらい太くなる。舌部の形状はほとんど変わらないようである。



鞘と舌の関係をもう少し詳しく観察したいと思っていたとき、口吻の鞘と舌を分離できることが分かった。次に両者を分離して観察した結果を示す。

・鞘の詳細観察

口吻のデジタルカメラ像 口吻を鞘と舌に切り離す
図17 口吻のデジタルカメラ像 図18 口吻を鞘と舌に切り離す


図17は蝉の額から出ている口吻のデジタルカメラ像である。この口吻を少し捻ると、口元から鞘だけが破断し、抜き取ることができた。その様子を図18に示す。上が残った舌部で、下が抜き取った鞘である。次に鞘の詳細を調べた結果を示す。

口吻先端部断面 図19の拡大像
図19 口吻先端部断面 図20 図19の拡大像


図19は先端から約0.3mmの断面である。すでに両側に洞が見える。図20は舌が入っているスペースの拡大像である。内面がどのようになっているかを調べた。

図20の拡大像 図21の拡大像
図21 図20の拡大像 図22 図21の拡大像


図21〜23は鞘の上部の間隙の内面を順次拡大して観察した結果である。図23の拡大像から、表面全体に太さ0.5μm、長さ2μmくらいの微毛が生えていることが分かった。

図22の強拡大像 舌格納溝の側面
図23 図22の強拡大像 図24 舌格納溝の側面


さらに格納溝の底面を観察したのが図24である。図24では何か凹凸があるように見える。

舌格納溝の底面 舌格納溝の奥部底面
図25 舌格納溝の底面 図26 舌格納溝の奥部底面


図25は上部間隙から底面を観察した像である。底面に微毛があることがわかる。この微毛が先端部だけのものかを調べるため、約100μmに渡って調べた結果、同じように微毛があることが分かった。図26は先端部と約100μm奥の隙間から底面を観察した結果を合成した写真である。

鞘中間部の横断面 鞘中間部の舌格納壁面
図27 鞘中間部の横断面 図28 鞘中間部の舌格納壁面


図27はさらに約1mm奥の切断面である。この内部を順次拡大したのが図28〜30である。この奥にも微毛が生えていることが分かった。

図28の壁面の拡大像 図29の強拡大像
図29 図28の壁面の拡大像 図30 図29の強拡大像


以上、口吻の断面構造と舌の格納溝の表面構造を調べてきた。今までの観察の結果から、口吻の断面構造の説明図を作成した。

口吻断面の説明図
図31 口吻断面の説明図


図31は口吻断面の説明図である。鞘はC型の断面構造を持ち、口元に行くにしたがって平たく、への字型になる。鞘の内部には左右に洞があり、そこには液状のものが詰まっている場所がある。この液状の物質はなんだろうか。まず樹液と考えられるが、格納溝には洞とつながる穴は観察されないため、樹液とは考えにくい。蝶にも同じような洞があったが、いずれも口吻を動かすための栄養を補給する役目をしているのであろうか。鞘の中央には舌を格納している溝があり、その表面には微毛が生えている。この微毛は何のためにあるのであろうか。樹液を吸い込むときに、鞘から舌部をカメレオンのように出すようであるから、滑りやすく瞬時に動かせるような働きをしているのではないだろうか。









                               −完−









タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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