■ 蝶の秘密(スジグロシロチョウ−触角)

生物の電子顕微鏡観察には、どうしても生きている生物を採集し、自由を奪って結果的には殺してしまうことになる。この行為に対する罪悪感がどうしても残る。私は採集した生物を大切にし、徹底的に観察して紹介する事で、許してもらおうと思って行動している。
今回のスジグロシロチョウも、口吻の観察だけでなく、まだ成功していないが、紫外線による雄雌の判定等の調査の目的で10頭もの蝶を採集してしまった。そこで、この試料を用いて、蝶の触角、足、複眼など他の器官も観察することにした。

今回は、触角を観察した結果を紹介する。触角については勉強不足で、機能などの知識がないので、とりあえず、ありのままの観察結果を紹介する。
図1は、ケーブルの商品が入っていた透明な直方体プラスチックケースに、採集したスジグロシロチョウを入れ、各部位や行動を観察した時に撮影した写真である。ガラス瓶内では滑るが、プラスチックケース内では垂直の壁にとまることができる。この写真では、左後ろ足と翅の下をケース底面につけて、壁に張り付いてこちらを見ている。
頭部から左右に広く伸びているのが触角である。
触角は、触れる感覚だけでなく、匂い、風、音なども検出していると言われている。どんな構造をしているのかを観察した。図1で分かるように、蝶を前から見ると、触角の先は耳かきのように、少し太くなり、しかも窪んでいる。正面から見ると凸部分が前に見えたので、凸部分を前面、凹部分を後面と呼ぶことにする。図2,3の光学顕微鏡像で分かるように、触角は何段かの節があり、各節は鱗粉で被われている。先端の2段くらいの節には、鱗粉がなく、光学顕微鏡では黄色く光って見える。

ケース内のチョウ 触角前面 触角後面
図1 ケース内のチョウ 図2 触角前面 図3 触角後面


まず、図2で示す前面の先端部を拡大して観察した。その結果を図4〜10に示す。

触角前面 先端部拡大
図4 触角前面 図5 先端部拡大


図5の拡大(第1,2節部) 図6の拡大(第1節部)
図6 図5の拡大(第1,2節部) 図7 図6の拡大(第1節部)


図7の拡大 図8の拡大
図8 図7の拡大 図9 図8の拡大


図5で分かるように、光学顕微鏡で黄色く光って見えた先端には鱗粉がなく、第3節との境界ステップも大きく、何か特別の機能がある部位のようである。これがレーダーのような検出部分であろうか。
この部分を拡大していくと、5μmくらいの錐体が全面を被い、ところどころに長さ30μmくらいの円錐状の毛と、長さ10μm直径2μmくらいの細い棒状の微毛があることが分かった。これらの毛は、匂い等を検出できる感覚子であろう。微毛は、図6,7でやや暗く見える部分に分布していることが分かった。

図6左下の境界部 鱗粉部(第3節より下部)
図10 図6左下の境界部 図11 鱗粉部(第3節より下部)


図10は図6の左下の第2節と3節のステップ部を拡大した写真である。第3節の錐体は、やや大きく(〜10μm)扁平であり、1,2節とは少し異なるものであることが分かる。また、鱗粉が取れたソケットが観察できることから、第2節の下部、および第3節には鱗粉があったことが分かる。
次に、図11で示す第3節より下部の鱗粉が被っている部分を観察した。図12〜15は順次拡大した写真である。

図11の拡大 図12の拡大
図12 図11の拡大 図13 図12の拡大


図13の拡大 図14の拡大
図14 図13の拡大 図15 図14の拡大


鱗粉は長さが約80μm幅15μmくらいの長い形をしている。また図14,15で分かるように、長軸方向に幅1μ間隔に団扇の骨に対応する組織があり、その間に0.5〜1μm径の穴が空いている。この鱗粉の下地も図10で観察した扁平な錐体で被われていると思われる。それらも何かの感覚子として機能しているのであろう。

次に図3で示す窪みのある触角の後面を観察した。図16が全体像であり、先端部の拡大像を図17〜20に示す。

触角後面 後面先端部
図16 触角後面 図17 後面先端部


図17の拡大 図18の拡大(第1,2節)
図18 図17の拡大 図19 図18の拡大(第1,2節)


図19の拡大(第1節) 第4節
図20 図19の拡大(第1節) 図21 第4節


図20で分かるように、最先端部と周辺部は、前面(図8,9)で観察したような錐体構造が被っている。しかし、中央の窪んだ部分は、やや小さく、回りとは高さが低い錐体があり、しかもその間には、触角前面の先端で観察した微毛より長い棒状の20μmくらいの毛が生えていることが分かった。これは前面とは異なった機能を持った感覚子だろうか。

図21は第4節を観察した写真である。中央部の窪み部を拡大したのが図22,23である。

第4節中央窪部 図22の拡大
図22 第4節中央窪部 図23 図22の拡大


この部分の微毛はより太くなっている。前面、後面に観察した微毛との相違は、同じ倍率である、図8,20,22を比較するとよく分かる。
次に4節の周辺部を観察した。結果を図24,25に示す。

図21左部 図24の拡大
図24 図21左部 図25 図24の拡大


周辺部には扁平な錐体が被っている。鱗粉のソケットが認められる事から、この部分には鱗粉があったと考えられる。しかし、窪みには鱗粉は認められない。



以上、触角の表面の詳細を観察してきた。特徴は、錐体が全面を被い、第3節より下には鱗粉が被っていて、先端部と後面の窪みには、太さが違う微毛がある事である。
残念ながら、観察した錐体、微毛がどのような感覚機能を持っているのかが分からないので、これ以上深く考察することができない。今後の課題としておきたい。



                               −完−









タイニー・カフェテラス支配人 文ちゃん

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